年度前半には、ケニア・ルオの村落社会でのシングル女性についての位置づけを、結婚儀礼に現れる言説などから調査した。また国内でのシングルに関する比較研究や文献・メディア調査を行いながら、後半もケニアの村落と都市での調査、文献調査を遂行した。 ケニアは2010年8月末に植民地からの独立(1963)以降初めてのケニア人自身による憲法改正を行い、民族の違いに左右されないケニア人としての市民権、女性の権利も大幅に改憲されたと期待が高まった。とりわけ村落レベルとナイロビのような大都市での女性の生き方、シングル女性の境遇は大きく異なってきているため、社会変化をみるうえで「シングル」に注目する意味は大きい。ルオ独特の伝統的慣習でコミュニティがなりたつ村落社会では、そもそもシングルであることがかつては許されず、現在も非常に難しい。そうした女性が都市にでて、また都市で学歴、キャリアをつんだシングルマザーの助けとなっている相互扶助の関係にあることも明らかになってきた。一般に父権的思考が高学歴の男性の間でもまだ強く、パートナーである女性が自分より学歴が上で稼ぎがいいと嫉妬とプライドのためにうまくいかなくなる。それゆえキャリア女性のほとんどはシングルマザーか離婚、未婚のシングルが多く、ハウスガールやメイドとして村からのシングル女性と家族のように暮らす人が多い。本研究は独立から半世紀近くたち自らの道を模索しながら四苦八苦しつつ歩むアフリカ社会が、近代化、民主化にむけて個人の生き方の選択が困難であった伝統的思考をどう変化させていくかをみるにつけても、「シングル」に着目することは有意義である。 以上の調査とこれまでの国内での「シングル」の比較研究の成果として、秋には『「シングル」で生きる』を出版、2月にはトークイベント、3月には国立市民館での講座に招待講演された。これは日本の社会においても他国の「シングル」の生き方についての関心の高さを示すものである。
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