最終年度にあたる平成22年度は、カトリック・ファンダメンタリズムに関するこれまでの調査と文献研究の成果を論文にとりまとめ、公表した(「ファンダメンタリスティック」という選択:カトリック世界における名付けと名乗りと生き方のポリティクス)。また、近年、生政治の文脈で再注目される告解制度について、実際の運用法に関する調査を行った。その結果、「ファンダメンタリスティック」な生活を自らに課す人びとにとっては、確かに罪の精査や悔い改めの機会を告解が提供する側面も見られる一方、一般のカトリック教徒にとっては、匿名性の原則に縛られない自由な運用、たとえば、個人的な相談事をしたり、司祭からの「秘密の告白」を引き出したりする場ともなっていることが明らかになった。論文では、隷属主体というよりはむしろ欲望主体として告解を運用する信徒、及び、隷属主体として主体化される司祭について、後者は特に悪魔祓い師が聴罪司祭である場合を例に挙げながら、報告を行った(「主体化をめぐる複数の回路とトランスカルチュレーション:マルタにおける告解の事例から」)。 エヴァンジェリカルについてはこれまでの調査から、カトリックにおける再福音化運動と、プロテスタントにおけるペンテコステ派や福音派の世界展開との連動性が見えてきたが、未だ不明な点もあるため、今後も継続して調査を行うことにしたい。 このほか、南ヨーロッパ・カトリック世界におけるマリア信仰との比較を視野に.日本における観音院への巡礼を扱った編著を刊行した(『高齢者のウェルビーイングとライフデザインの協働)2010年10月)。また、2011年8月には教科書を刊行予定である(波平恵美子編『文化人類学』第5章「宗教と世界観」を執筆)。
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