3年計画の初年度である本年度は、主に農用馬や在来馬の生産者・保存会を対象とした現地調査を実施し、当事者が主張する「民俗文化」「伝統文化」保存の必要性の論理を分析した。農用馬や在来馬の生産振興の補助金は地方競馬の減収に伴い減額され、大規模な繁殖農家・肥育農家でなければ生産・飼育で採算を得ることは難しい。特に農用馬や在来馬は、農耕や物資の運搬といった従来の用途・役割を失ったことで頭数が減少し、生産者は新たな活用策を見出し、馬と関わり続けるための理由付けを必要としている。本年度は(1) 農用馬に関して、熊本市の藤崎宮側大祭、盛岡市・滝沢村のチャグチャグ馬コを対象とし、飼育の委託や貸借のシステム、調教方法など、祭りやイベントへの活用の状況を調査した。また、肥育農家や馬肉業者等を対象に、馬肉の消費拡大に取り組む過程で、生産者と馬との関係が再構築されていることを分析した。(2) 在来馬については、沖縄県八重山郡与那国町を中心として、与那国馬の乗用化推進事業に関する調査を実施した。在来馬は遺伝資源であり、生産者は品種を保存する役割を課せられている。しかしながら家畜の価格は需給関係の中で決められ、浩用の道がなければ需要も生まれない。そのため、単に保存するだけでは生産者の生産意欲を維持できず、需要を高め取引価儀格を安定させる必要がある。こうした中、全国乗馬倶楽部振興協会による在来馬乗用化推進事業を通じて、与那国馬を調教し全国の乗馬クラブへ販売するシステムの確立が図られている。生きた文化財としての在来馬を保存するだけではなく活用し経済的な利益を生み出しながら、新たな価値を付与しようとする生産者の取組みを中心に分析した。
|