本年度は、主に(1)国の天然記念物である宮崎県串間市の御崎馬と(2)愛媛県今治市の文化財である野間馬を事例に、遺伝資源であり生きた文化資源でもある在来馬を、保存に止まらず積極的に活用することを求める方針転換をきっかけに、生産現場に生じた矛盾と葛藤を調査した。 これまで生産者は在来馬を、補助を得て保存することに努めてきたが、地方競馬の減収に伴い補助が減額され、今後は補助に頼ることなく生産・飼育することが求められている。しかしながら、在来馬の活用に当たっては、血統管理や品種保護の側面から、様々な制限が生じてくる。また、生産者の間にも在来馬は「文化」であり、補助を得て保存するものという認識があり、文化を保存する役割を担わされながら、経済的な負担を強いられ始めたことで、生産意欲にも影響が出始めている。 そもそも、御崎馬は野生馬であることに価値があるとされ、野生馬の社会をそのままの形で保存することが重要とされてきた。廃馬を調教し乗用に活用することが模索されているが、このことで御崎馬の特徴や価値が揺らぐことへの懸念も窺える。その一方、野生馬ならではの特徴を生かした新たな調教法を生み出すなど、関係者は積極的な活用策を模索している。また野間馬は今治市の所有であり、自治体が委託する指定管理者により保護されているが、血統管理・品種保護のため信頼性の高い施設への譲与しか認められず、文化財という枠組みの中で活用することは様々な困難を伴う。本年度は、文化財である在来馬を、再び活用し経済的な価値を生み出すことを模索する生産・飼育の現場が抱える矛盾や葛藤を分析し、文化と経済の関係を問う布石とした。
|