平成20年度における重要な課題は、『都市貧困者と隣接性』『都市における多元的帰属意識と場所性』『「共通の枠組み」に関する理論と方法』の3つの論題に関する現地調査であった。フィリピン現地NGOの協力を得て、フィリピン大学デリマン校内の不法占拠地域とメトロマニラにある3つの不法占拠地域(SAMARIMA-HOA・MACODA-HOA・SAN AGUSTIN-HOA)において現地調査を実施した。同時に、不法占拠地域の住居形式を成立させている要因分析・建築学的調査(平面と断面構成・建築材料・構造・工法)を並行して行い、居住形態から技術的要素までの横断的な調査から本研究課題における問題の所在を再検討する作業を実施した。その際、当該地域で実施されているコミュニティ開発プロジェクトに関する社会的影響を抽出する中で、地域住民の都市認識に影響を与える開発理念と実施政策についても調査する必要性を確認した。不法占拠地域のコミュニティ開発及び住居に関する資料収集は、フィリピン大学及びアテネオ・デ・マニラ大学において重点的に資料収集を行った。今年度の具体的実績は、次年度以降の追加的調査分析の指針として以下の2点を確認できた点にある。1点目は、隣接性を伴う人間関係の把握には共有空間と非共有空間の両面における帰属意識の把握が重要でありの、そのためには(1)個人住居という近景、(2)隣接する住居群という中景、(3)コミュニティ計画(都市計画)的な烏瞰視線を含む遠景という3つの視点を同様に扱っていかなければ、都市生活者の本来の姿は見えてこないという点である。2点目は、フィールドワークによって得られた文化人類学的な知見を、調査者と調査対象地域住民の双方から検討する実践モデルの具現化に関して、住居や空間を視覚的に表現する建築的表現(模型・スケッチ・ドローイング)を応用することで、フィールドにおけ1る場placeや場面sceneに関する住民の認識を視覚的イメージとして共有する可能性を見出すことが出来るという点である。上記を踏まえた実践モデルの具現化の詳細な指針は、現在検討中である。
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