平成21年度における課題は、前年度の問題点を踏まえて、『都市貧困者と隣接性』『都市における多元的帰属意識と場所性』『「共通の枠組み」に関する理論と方法』の三つの論題に関して一層の深化をはかることであった。前年度に残された課題であった「地域住民の都市認識に影響を与える開発理念と実施政策」ついては、フィリピン・メトロマニラにおけるCMP事業(コミュニティ抵当事業)とHomeowners As sociation(HOA)という法人組織に焦点を置き、都市貧困地域における人間関係を、経済と伝統の両方の世界に足を踏み入れた戦略的な生活実践と捉えることで、緩やかで暖昧なネットワークとしての都市観を記述しようと試みた。今年度の具体的実績は以下の二点である。一点目として、調査者と住民の間で相互批判的な解釈を可能とする共通の枠組みに関して「視覚化されたイメージ」という実践モデルを定義し、その応用を試みた点である。具体例としては、第11回「まちの活性化・都市デザイン競技」において、現地調査を踏まえた居住空間の将来像を様々な解釈が可能な視覚的イメージとして表現し、多くの相互批判的意見を引き出せた点にある。本提案手法は高く評価され、奨励賞を受賞した。二点目として、建築計画に応用するプロセスの中で、都市貧困地域における隣接性を伴う住居空間と本地域特有の人間関係を成立させている<顔>を合わせる場所性というフィリピン独自の空間を、文化人類学における新たな相互解釈を生成するツールとして認識できた点である。最終年度へ向けて上記の実践モデルを進展させることで、住民との相互批判的な対話へ向けた詳細なプロセス構築を進めている。
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