本研究の最終年度にあたる平成22年度は、3つの問題系における課題を遂行すると共に、補完すべき資料の収集に努めた。また、前年度までの研究成果を踏まえて研究全体の総括を行った。具体的内容は以下の通りである。『都市貧困者と隣接性を伴う居住(問題系1)』については、建築学と人類学の視点から資料収集・解析を行い以下の成果を得た。メトロマニラ貧困地域を中心とした東南アジアの都市貧困地域において、人類学的視点を軸に実施された建築コンペや住居改善プログラムに係る資料や図面等を発掘し、その成果を元にRefugees International Japan(国際難民支援会)主催の国際建築設計コンペ「コンテナで輸送可能なコミュニティセンター」に参画(9月)し、「Design for Hope木・土・藁によるセルフビルドによる空間構築」を計画した。本計画は、セルフビルドによる空間構築を軸にして住居の内外を緩やかに結ぶことで『都市における多元的帰属意識と場所性(問題系2)』の空間化を実現し、多民族共生に向けた生活空間の構築に関する議論に発展させた(11月研究会)。同時に、都市貧困者が地元住居と労働先である都市住居(おもにメトロマニラ貧困地域)を頻繁に往復しながら居住する特徴的な形態を見出し、こうした居住を旅的居住観として認識することで、その成果の一部を国際労働移民の行動形式に援用し、第24回ラテンアメリカ研究学会(国際会議)において発表した(10月)。『「共通の枠組み」に関する理論と方法(問題系3)』については、前年度までに提出した二つのコミュニティ計画の提案を基底に構築した「視覚化されたイメージ」という実践モデルについて国際開発学会第21回全国大会(12月)にて議論し、その有効性と問題点について考察した。
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