平成21年度は、8月22日から9月21目までカナダのブリティッシュ・コロンビア州、バンクーバー市に滞在して、カナダのファースト・ネーションズ(先住民)およびベルダーシュに関する調査研究を実施した。滞在中は、ブリティッシュ・コロンビア大学、アジア研究学部のNam-lin-Hur先生の協力により大学図書館と図書学術ネットワーク利用が可能となり、多数の文献を渉猟することができた。大学附属の人類学博物館では、彫刻の実演をする先住民の方と知り合い、その方の紹介で、先住民スクワミッシュをゲストに迎えるサーモンフェスティバルに参加し、サーモンを川に返す儀式を間近で観察することができた。そのような公の機関が奨励する先住民文化活動に参与する一方で、地道な活動を独自に続ける団体"Dancing To Eagle Spirit Society"とも接触をした。その団体は、かつてベルダーシュという蔑称で呼ばれた人々の地位向上と先住民文化の回復を目指すことを主たる目的とする。ベルダーシュの語源は、男性の奴隷、あるいは男性同士の性交で受け身役を意味するアラビア語にあり、彼らは植民地期の役人から異性の衣装を纏い、異性の役割に従事する特殊なジェンダーとして注目された。今日では公的先住民文化からは除外される。西洋社会でLGBTの活動が盛んになる中、カミングアウトした先住民たちはベルダーシュに関する研究書を手にし、ベルダーシュと名指しされた先祖と先住民文化との結びつきを再発見する。団体組織を務めるサンドラは、自分たちの先祖は異性の衣装を纏った異常者ではなく、二つの精神を併せ持った天賦の才能の持ち主として先住民文化に根付いていたと主張し、LGBTの一つとして数えられることを否定する。そして、一旦根絶やしにされた先住民文化を回復させ、先住民文化に根付いたTwo-Spiritedの意義を回復しようと努めている。
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