本年度はヨーロッパの博物館におけるナショナルヒストリー表象のあり方についてのデータ収集を行った。ヨーロッパの中でも西欧・中欧・東欧を比較するデータを収集するため、西欧ではフランス共和国とドイツ共和国、中欧ではオーストリア共和国、東欧ではスロベニア共和国とクロアチア共和国、チェコ共和国の博物館において調査を行った。 今年度明らかになった第一のことはそもそも博物館という制度によってナショナルヒストリーを表象するあり方に差異があることである。最も制度の整備が進んでいるドイツにおいては、ナショナルヒストリーを展示する国家レベルの博物館が二つ存在している。またスロベニア、クロアチアにおいてもナショナルヒストリーを展示する専門の歴史博物館が存在する。一方、フランス、オーストリア、チェコにおいては、専門の歴史博物館が存在しない。第二に博物館における歴史表象については歴史博物館以外の博物館がその役割を果たしていることである。たとえばフランスやオーストリアには専門の歴史博物館は存在しないが、それらの国々は博物館の長い歴史を有し、美術館や美術史博物館が歴史を表象する役割を担っていると思われる。これらの二つの点は、ヨーロッパ社会において歴史がどのように認識されているかが、国ないしは社会によって異なっていることを示している。次年度以降、収集したデータを分析し、その特性をさらに詳細に明らかにするとともに、アジアなど他の地域との比較を行う予定である。
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