研究概要 |
昨年度の調査から、都市部霊媒カルトでは霊媒と精霊との関係性や儀礼解釈に変化が見られることがわかったため、今年度は他地域との比較を共時的課題の第1点目としてあげていた。2009年8月に約2週間上ビルマの巡礼地で実施した調査からは、守護霊の選択や霊媒と守護霊との関係性には地方毎に特定の傾向が見られるが、いずれの地方でも異性愛に基づく婚姻関係を中心としており、都市部のような変化はあまりみられないことがわかった。これは都市部霊媒カルトにおける変化が、従来指摘されてきたローカルカルトの多様性からではなく、近代化やグローバル化という文脈から捉えるべき問題であることを示すと同時に、近代化やグローバル化が呪術的実践に変化をもたらすという仮説を証明するものとして大きな意味を持つと考えられる。 共時的課題の第2点目に挙げていたカルトー内のパトロン・クライアント関係については、顧客と霊媒見習いはともに「弟子」と呼ばれ、師である霊媒は両者を区別せず自らに対する忠誠と活動への全人的参与を求めるが、一方の「弟子」は自分に合う師を見つけるまで師を渡り歩くことがわかった。また、トランスジェンダー霊媒の増加はこれまでにも報告されているが「弟子」全体としては未だ女性が多く、カルトへの関与のきっかけについても近親者に霊媒カルトの信者を持つ者、持たない者、トランスジェンダーで異なる傾向が見られることなども明らかとなった。 通時的課題に関しては、植民地期以前の精霊信仰の状況について明らかにするために、王の勅令集である『The Royal Orders of Burma, A.D.1598-1885』(全10巻)の検討を実施した。ここから精霊に関する記述には時代により大幅な偏りが見られること、コンバウン時代後期には鉱物資源発掘前に土地の精霊に許しを請うため、頻繁に役人や霊媒に祭祀の実施を命じていることなどがわかった。
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