これまで精霊を奉じる霊媒を中心に形成される霊媒カルトは主に女性の関わるものとされてきた。そこで、『現代ビルマにおける宗教的実践とジェンダー』では、従来の議論の理論的整備を行うと同時に都市部霊媒カルトとの比較対象として村落部における女性の精霊信仰への関与のあり方を明らかにした。また女性と仏教のかかわりについては、『ミャンマーの女性修行者ティーラシン-出家と在家のはざまを生きる人々』で論じている。 このほかにも、霊媒カルトにおけるジェンダー規範の変容に関し、複数の研究発表を行った。近年、ミャンマーでは主な霊媒の担い手が女性からメインマシャーと呼ばれるMtoF(Male to Female)トランスジェンダーへと変化していることから、「宗教と社会」学会における発表では、なぜ霊媒となる女性が少なくなっているのかについての考察を行った。また、日本文化人類学会ならびにフランスで開催された2010 International Burma Studies Conferenceでは、トランスジェンダー霊媒の間で顕著な、精霊からの招命の証としての精霊との性的な夢の語りの不在や、成巫儀礼を精霊との「結婚」と捉える従来の解釈の否定、神話の創造といったいくつかの変化が、精霊の主体性や神話における異性愛主義を否定することなく、ビルマの精霊信仰における異性愛主義を脱構築するための交渉的過程となっていることを示した。一方で、通時的課題については史料の限界から捗々しい成果を挙げることができなかったため、今後の課題としたい。 研究成果は今後さらに6月の国際シンポジウムや英文出版等によって国際的に公開していく予定である。
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