本年度の研究では、権利概念を検討する際に、それを「保護された権利(vested liberty)」として把握する際の先決問題として「自由」概念についての検討が行われた。この際に、ヒレル・スタイナー(Hillel Steiner)及びイアン・カーター(lan Carter)らの消極的自由論に依拠しつつ、メタ倫理学的検討を経て、純粋消極的自由を自由の構想として擁護可能であることが見出された(なおその成果の一部を論文「アーキテクチュアと自由」として『思想地図』. 誌上に公表した)。また、規範的法実証主義的再構成の先決問題としての、記述的法実証主義理論についての包括的検討を行い、源泉準拠的包含的法実証主義が記述的法概念論として擁護可能であることが見出された(なおその成果の一部は東京大学大学院法学政治学研究科に助教論文として提出されたが、今後、国家学会雑誌への掲載などを通じた公表を見込んでいる)。また、思想史的基盤としてジェレミー・ベンタムの法概念論を検討するという作業については、『法一般論』の新版テクストをUCLBenthm Projectより入手しこれに基づいた訳稿を概ね完成したが、これはベンタム研究者との共同検討を経た後に作品社より刊行の予定である。また、規範的法実証主義を支えるべき政治哲学としての功利主義の検討もこの間に並行して進めた(その成果の一部は論文「あなたは『生の計算ができるか』として『ラチオ』誌上に公表した」)。本研究課題の遂行にあたっての基礎的な(すなわち先決問題的な)作業について、本年度の研究によっておおむね成功裏に為し終えたものと考える。
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