本年度の研究では、前年度までの基礎的作業によって得られた権利概念の分析を踏まえつつ、そうした権利の規範的正当化可能性(なかんずく研究代表者が依拠する功利主義的政治哲学に基づくそれ)を検討することが行われた。特に帰結主義的規範理論下に於ける権利準則の正当化可能性の分析が行われ、そこに於ける正当化の様態を数種類に分類し、それらの様態の差異が規範理論上も法概念論上も重要な意義を有することが確認された。この検討に必要とされた法概念論的な作業の一部については本年度4月の東京法哲学研究会に於いてその一部を報告し、上記の分析については本年度1月に北海道大学大学院法学政治学研究科の基礎理論研究会に於いてその一部を報告した。なおこれらの分析を踏まえた上で、更にこれを「人権」概念へと応用し、その理論的含意を追求した。その結果を「功利主義と人権」と題した論考とし、法律文化社に提出済みである(共著書として出版待ち)。それ自体は道徳的権利を与えないが道徳的に正当化された法的権利準則という対象の同定を通じて、法命題の真理根拠(truthmaker)から道徳的事実を排除しようとするがそのこと自体を道徳的に正当化しようとする規範的排除的法実証主義の本性と帰結主義的権利論の接合という理論的課題の解決への道筋が示されたものと考える。 なおこれらに関連して、前年度に引き続き権利論の根底にある消極的自由論の検討を継続し、その成果を「功利主義と自由:統治と監視の幸福な関係」と題し出版した。また前年度からの継続作業として、前年度に遂行したベンタムの『法一般論』の新版テクストの訳稿について、概ね各週ごとに開催されるベンタム研究者との検討会を通じて、出版稿への改訂を行ってきた。この作業は次年度にも継続する予定である。
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