本年度の研究では、前年度までの基礎的作業によって得られた権利概念と自由概念の分析を踏まえつつ、そうした権利の規範的正当化可能性(なかんずく研究代表者が依拠する功利主義的政治哲学に基づくそれ)を検討することが引き続き行われた。特に帰結主義的規範理論下に於ける権利準則の正当化可能性の分析という前年度来の作業については、本年度5月に日本財団仮想制度研究所主催の研究会(第24回VCASIセミナー)に於いて研究報告を行い、経済学研究者からの批評を得た上で、これを「制度とその規範的正当化」と題し論文として公刊した。これは消極的自由概念を軸に権利論と帰結主義を結びつけ、消極的自由を直接に縮減する物理的実体による統治技法の道徳的正当化の理論構造に到るまでを分析するものである。この一連の作業によって、分析的権利論に基づく法的権利の道徳的正当化構造の解明という本研究の主題が、社会・制度の正義性と個人に課せられる道徳的義務の関係という正義概念論上の問題と密接に結びついていることが発見された。最終的に本研究の研究主題については紙幅の制限により完全ではないにせよ、「功利主義と人権」と題して、特に一般読者を想定しつつ、論文にまとめ公刊することができた。なお、本年度に行われた研究の一部については、来年度11月に開催される日本法哲学会のシンポジウムに於いて指定報告者として研究報告を行う予定である。また前年度からの継続作業として、前年度に遂行したベンタムの『法一般論』の新版テクストの訳稿について、概ね各週ごとに開催されるベンタム研究者との検討会を通じて、出版稿への改訂を行った。また本研究の基礎理論としての功利主義についても継続的研究の結果として複数の論文を公刊した。
|