「研究の目的」に記載した通り、本研究は、(1)社会的な討議/闘技に開かれた過程において、(2)差異/再分配の承認をめぐる実践が展開される、したがって(3)非基礎づけ主義的なアイロニズムの地平に立つ、ポストモダンの法体制論へと批判法学を鍛えることを目指すものである。今年度は、「研究実施計画」に記載した通り、上記内容のうち(1)「過程」研究を中心としつつ、(2)「実践」研究および(3)「地平」研究を同時並行的に実施した。 (1)について具体的には、闘技民主主義理論(ラクラウ&ムフなど)関連の文献を講読し、批判法学(ケネディ)のピンク・セオリーとの比較検討を行った。その結果、両理論を(外的決定論批判などの点で通底する)ポスト・マルクス主義からの派生理論として統一的に把握し得る理路を解明しつつある。この成果は、批判法学を社会・政治理論化する際の重要な契機となるものである。 (2)および(3)について具体的には、所属研究機関法曹養成専攻における講義「法解釈の方法」の準備を兼ね、法解釈実践の系譜について考察し、その成果として、船越資晶「法的思考におけるポストモダンの条件-ダンカン・ケネディのウェーバー論を手がかりに-」法学論叢163巻4号(2008)を公表した。これらの成果は、法解釈実践の史的展開を辿りつつ、現代的なそれ(批判法学=政策分析)の精神史的根拠を提示するものであり、そこでは、アイロニズムの地平でなされる法解釈実践の性格が(再魔術化・神々の闘争などの概念により)具体的に規定されている。この成果は、批判法学をポストモダンの法実践論として再構成する際の重要な契機となるものである。
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