「研究の目的」に記載した通り、本研究は、(1)社会的な討議/闘技に開かれた過程において、(2)差異/再分配の承認をめぐる実践が展開される、したがって(3)非基礎づけ主義的なアイロニズムの地平に立つ、ポストモダンの法体制論へと批判法学を鍛えることを目指すものである。今年度は、「研究実施計画」に記載した通り、上記内容のうち(2)「実践」研究を中心としつつ、(1)「過程」研究および(3)「地平」研究を同時並行的に実施した。 (2)について具体的には、批判法学の実践論「脱正統化プロジェクト」につき、カール・クレアの労働法批判やピーター・ゲイブルの契約法批判などの入念か読解・分析を行った。その結果、これらの法批判実践は、実はむしろポスト・マルクス主義的な観点からの統一的な位置づけが可能であることが判明した。この成果は、批判法学の法実践論の意義と射程を明確にするだけでなく、これを法体制論へと有機的に統合することを可能にするものである。 (1)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法社会理論「ピンク・セオリー」を鍛える作業を行った。ここでは、ラクラウ・ムフらの闘技民主主義理論をより詳細に読解・分析することにより、ピンク・セオリーをポスト・マルクス主義からの派生理論として把握する理路をほぼ解明し終えた。この成果は、批判法学に基づく法体制を記述する際の重要な契機となるものである。また、(3)について具体的には、法的思考の系譜学(古典派→社会派→現代派)について、これをニーチェからローティへと至る思想史的脈絡の中で基礎づける作業に着手した。この成果は、現代的法体制をポストモダンの精神史的地平において把握する際の重要な契機となることが期待される。
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