平成21年度は、比較的容易に分析可能なケースに関しての結果を論文「両側の契約破棄可能性下の法的救済ルールの効率性」としてまとめ、法と経済学会において報告した。Che and Chung (1999)に代表される売り手のみの協力的投資のモデルでは期待利益ルールのもとでは投資するインセンティブが無いが信頼利益ルールのもとでは投資するインセンティブが存在することが示されている。これに対して、報告論文では、売り手と買い手の双方が協力的投資を行う場合には、売り手に必ずしも投資するインセンティブが存在するとは言えず、契約価格と固定費用の大きさにより、売り手もしくは買い手のどちらかのみに投資するインセンティブが存在することが明らかとなった。また、期待利益ルールに関しては、契約の履行は効率的だが投資するインセンティブがないというChe and Chung (1999)と同様の結果が確認された。一方で、モデルの簡単化のために非対称的な確率構造を用いたため、結果の一般性には問題があることが学会において指摘された。そのため、対称的な確率構造を導入するように現在モデルの再構築に取り組んでいる。 また、関連したプロジェクトとして法と経済学に関する新しいテキストの共同執筆に参加し、「契約不履行の法的救済」を担当した。 最後に、今後の展開に関連する文献のサーベイを行い、とくに関係的契約における法的救済の分析を扱った論文を中心に詳細に検討した。
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