平成22年度は、研究目的に掲げた「人間の生の両端領域で生じている諸問題に対する近時の規範化の要請」について、どのように応答すべきであるのか、当事者の善き生の追求に対して制限を加える場合、その理由が何であり得るのかを問い、論文、研究報告等によってその成果を公表した。 具体的課題は、人間の生の終末が、医科学技術の実施とともに、本人はもとより、他者(特に家族を初めとする近しい者)の意思によって決定されることが事実上のみならず、規範的にも許容されつつある現状への規範的応答可能性であった。英米判例法上形成されてきた所謂「代行判断の法理」が、この応答に耐え得るかを検討し、結果として、英米判例上のそれとは異なり、他者による決定を一定程度尊重せざるを得ないという事実から、本人の意思とは独立に、家族を初めとする本人に近しい者による(固有とも言い得る)決定権として機能させようとする我が国の現状は、その規範的意味を問うていない故に、大きく留保を付けなければならないことを確認した。その上で、近しい者が本人の生の終末に繋がる決定を行うことが正当であるには、本人及び近しい者との関係性が維持継続、あるいは途絶すべき関係性として規範的に認め得るか否かがひとつの指標であるべきこと(関係性の権利)を明示した。更に、インフォームド・コンセントの法理についても、具体的且つ理論的検討を加えた。I.C.における重要事は、そこで為された一回の意思決定(合意)内容の実現ではなく、当事者(医療者、患者他)皆が、患者の善き生の追求の達成に資することであることに着目した。更に当事者が各々、相手方に対してこの目的達成のために有する責務を当事者各々が有する権利には、片務的負担が内包されると主張した。これを、従来の権利概念においては看過されてきた構成要素のひとつとして明示した。
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