本研究は、司法制度の市場化や制裁としての損害賠償の重視といった、司法制度のプライヴァタイゼーションを主張するリバタリアニズムの法構想を手がかりにして、民事と刑事の峻別を説く民刑分離の原則に関して法哲学的研究を行い、民事と刑事の融合の可能性について考究することを目的とする。 研究実施期間1年目である平成20年度は、まず現行の刑罰制度が抱える問題点、刑務所の市場化の可能性、刑罰制度に代替する制裁のあり方について、法哲学、法制史、法と経済学、刑事政策などの領域の論文を収集し精読に努めた。その成果の一部を、「リバタリアニズムの法執行-刑罰の近代化とその限界」という小論として発表した。また、英国において法執行のプライヴァタイゼーションに関する資料収集を行った際には、刑罰制度の限界や刑務所の民営化に関する研究資料を包括的に収集することができただけでなく、刑務所問題に関して多角的な研究を行っている研究プロジェクトの充実した研究成果も入手することができた。 本研究における司法制度のプライヴァタイゼーションは「司法制度の市場化)だけでなく「私法原理の重視」も意味しているが、後者に関しては、民法学や法哲学において損害賠償の機能がどのように位置づけられてきたのかを理解するために、主要文献を収集、解読する作業に着手した。 以上のように平成20年度においては、民刑分離の原則に関して考察する際、刑事の領域からその限界を模索するアプローチに重点をおいて研究を行った。
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