研究概要 |
2009年度においては,イタリアにおける失業問題や移民の受入れ問題を背景とした社会的排除の問題を憲法学上の人権論の観点から是正するための理論を探究するという観点から,イタリアにおける国家の非宗教性原則と現代社会における文化的多様性との関係につき研究を行い,関連文献の収集・検討および他の憲法研究者との議論に基づき,以下の考察上の成果を得ることができた。まず,国家の非宗教性原則が包摂されるイタリア共和国憲法を解釈する前提として,欧州連合における政治的統合が進行している状況下でイタリア共和国憲法の運用がいかなる対応を求められているのかという見地において,欧州連合レベルにおける基本権保護に関しイタリア共和国憲法が有する特質を摘出することにより,国家の非宗教性原則の解釈に影響を及ぼす宗教的多元主義を始めとする憲法上の基本原則の意義を明らかにした。この考察を出発点として,国家の非宗教性原則を体現する共和国憲法上の諸規定の解釈・運用につき調査を行った。その結果,主として,第一に,共和国憲法制定の審議を行った制憲議会において,信教の自由ないし国家の非宗教性原則をもって,国家と宗教との関係に関する規律,宗派間の平等,各宗派がもつ自治の内容といった争点をめぐり,いかなる解決が企図されていたのかという視点,第二に,共和国憲法体制下における憲法訴訟の運用において,憲法裁判所は,教育現場における十字架像の掲示や訴訟における宣誓義務等の具体的事例を通じ,国家の非宗教性原則の内容をいかに画定してきたのかという視点につき,イタリアでの議論を整理することができた。かかる議論の整理により,イタリアにおける国家の非宗教性原則の運用が,公共空間における教会の役割を排除しないという点において,当該原則の母国たるフランスと著しい相違を呈するという研究の方向性が展望されている。
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