研究概要 |
平成20年度は, 日本法とドイツ法につき, 問題状況と, 主としてそれに対する立法のレベルでの政策対応状況を正確に把握することを中心目的として文献調査を行った。このために, 2008年8月には, ドイツ連邦共和国ボッフム大学社会保障法研究所での研究滞在を行った。3週間ほどの滞在であったが, 文献調査のほか, 同研究所の研究者達から教示を得たほか, 議論を行うことができた。研究代表者の大きな関心を惹いたのは, やはり地方公共団体の果たす役割(社会扶助行政だけでなく警察行政も, ホームレスの住居確保のために機能する)と, 社会福祉団体の大きな役割とに関する彼我の差であった。自己が基本的には行政法学者であるためか, 地方公共団体のあり方に関して最初の関心が向けられることとなり, 地方公共団体は住民をその構成要素とする, 住民とは住所を有する者である, という常識的なこの言明は, 一体何を意味するのかという観点から地方公共団体の性格を問い直す作業を最初に行い, この部分について論文を公表できた。そこで手に入れた, 開放的強制加入団体としての地方公共団体という理解, それが日本という政治体制において占める固有の特徴(国と同型の統治団体であるという単純な理解は許されない), 市民社会との厳密な区別, は, ホームレスの排除をともすれば性急に要求する, 「住民」と地方公共団体との間の関係を精密に検討し, 日本社会め特色を明らかにする基本的視座となろう。この獲得した観点も踏まえて, 現在は, 公園にテントを設置して居住するホームレスの住所の有無, さらにはこのようなホームレスを行政代執行を用いて(実際上)排除することの法的評価に関する研究を行っている。この過程において, 弁護士から貴重な教示を得ることができたのは, 幸運であった。今後は, これらの問題に関する論文, さらにはドイツとの比較も踏まえた, ホームレスの法的な捉え方と法的な対策に関するヨリ大きな視座からの論文を執筆したい。
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