国境を越えた企業再編に対応する各国法を比較するため、平成20年度は、アメリカおよびカナダの税制について調査・分析を行った。 アメリカでは、国際的な組織再編を国内組織再編とは区別せずに課税繰延べを認めるという税制から、濫用的租税回避を防ぐ試みが蓄積された結果として現在の枠組みが構築されている。そのため、租税回避防止という視点からの対応規定を多く見出すことができた。例えば、組織再編に関与した株主の事後(組織再編後)の行動に関心を寄せ、一定の取り決めを締結することによって、租税回避の防止を図っている。また、新たに暫定規則が発遣された(2008年8月)。例外(非課税)の範囲を一部拡張する一方で、租税回避取引に対する規定は厳格化が図られている。 カナダの組織再編税制は、1971年改正により大きく整備された。ただし、カナダにおいて課税の繰延べが認められる組織再編は、カナダ内国法人のみが関係するものに限られている(カナダ所得税法87条1項)。その一方で、租税条約において事業再編に関する繰延規定が導入されることがあり、それを前提に規則を発遣する権限が財務省に与えられている。 これらの分析により、両国における組織再編税制の概要および国際的な側面について、いかなる局面で、どのような形で対応しようとしているかが明らかにできた。このこと自体、一定の意義を有している。また、各国制度の内在的理解を超え、相互の比較による抽象的な枠組みを抽出するための前提作業と位置づけられる。
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