国境を越えた企業再編に対応する各国法を比較するため、前年度に引き続き、各国税制の調査を行った。2010年3月には、IFS・ETPF主催の税制に関するコンフェレンス(イギリス)に出席した。金融危機を経験し、不確実性を増す中で、ヨーロッパにおいて法人税をめぐる議論がどのように変化しているのか、その一端を垣間見ることができた。例えば、金融危機の原因とはならなくとも、過剰なリスク・テイクを促進するバイアスを取り除くことを税制に期待する主張の高まり(銀行ボーナス課税の導入、金融取引税等の検討など)を目にし、規制と税制との連携を意図した制度構築の研究が必要であることを実感した。また、事業再編に対する移転価格税制の適用・運用について執行上の難点が指摘される中で、包括的な課税ベース(Common Consolidated Corporate Tax Base)策定の動きに期待する意見が(日本から眺めているよりも)強いことを知った。今後の研究の中で、CCCTBをめぐる議論において組織再編成がどのように扱われるべきかを検討していきたい。 理論的検討として、法人税法における費用化(損金算入)のタイミングに焦点を合わせ、「「自己の便益」のための支出と「寄附金」との境界-福岡高裁平成19年12月19日判決を素材として-」を執筆した。繰延資産(とりわけ「その他の繰延資産」)の扱いは、企業会計との差異が顕著な分野であり、法人税法独自の視点を明らかにする上でポイントとなる。損金算入制限のあり方をモデル化することで、組織再編における対価・のれんの扱いなどを検討する指標となることが期待される。
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