研究概要 |
2010年度は、文献調査を中心に、各国の制度改正の動向を研究した(「UCITS IVに対応した英国税制の動向」)。ヨーロッパにおいては、加盟国の財政問題が政治的な論点になったことに伴い、域内での競争力格差の是正を図り、かつ加盟国の財政規律を強化することを目的として、「競争力協定」が提案された。その中には、法人税に係る課税ベース統合(Common Consolidated Corporate Tax Base)の動きを促進させることが含まれているため、今後の動きを注目していきたい。また、日本、イギリスが、海外子会社からの配当を非課税とするいわゆるテリトリアル方式に移行したことにより、アメリカでも、法人活動の国際課税ルールに関する議論が活発なものとなっている。海外活動から生じる所得に対する課税ルールに変化があれば、それは当然クロスボーダーでの組織再編課税ルールに影響を及ぼす。加えて、国際的なM&Aに関しては、他国に本拠を置く企業との競争という視点が強く影響することを思えば、大きな転換点を迎える可能性はあるだろう。 2009年度中に検討し、執筆した「「自己の便益」のための支出と「寄附金」との境界-福岡高裁平成19年12月19日判決を素材として-」については、刊行時期が遅れたため、アメリカにおける議論動向を追加することとした。アメリカにおいても、やはり同様の問題が存在するものの、法人税法における費用化(損金算入)のタイミングには,無自覚なまま議論が行われている。繰延資産(とりわけ「その他の繰延資産」)の扱いに関して、法人税法独自の視点を明らかにする上で議論を深めることができたと考えている。
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