平成20年度の研究を通じて、以下の諸点を明らかにすることができ、その成果を「憲法学からみた行政組織法の位置づけ」と題して『法政研究』誌上に公表した(75巻2号81-158頁)。 (1) 行政組織の編成を「執政」(Regierung)の代表的な領域と捉えたうえで、その権限をいかに配分するかという視角から行政組織法を考察する思考態度が、ドイツの学説には息づいてきた。つまり、申請者が想定していたとおり、「議会制定法による執政作用」の典型を行政組織法に見出し、「執政権」配分の一環として行政組織の法定化要請を論じる図式が広く浸透していたのである。 (2) そうした議論を具体的に跡づけるならば、行政組織の編成を法律によって規律することについて、必ずしも肯定的な評価ばかりが目立っているわけではない。法律による組織編成が行き過ぎると、諸政策の変更に即応できるだけの柔軟性が失われてしまうからであり、その意味でもむしろ行政に一定の自己組織権を留保しておく選択が積極的に評価されているようにみえる。 (3) 以上の議論にあたって、ドイツの学説は「義務的法律事項」と「任意的法律事項」との区別を、少なくともわが国の学説よりは重視してきたように思われる。行政に自己組織権が認められる場合でも、議会が任意に法律を制定することは可能であり、そこから一歩踏み込んで法律の制定を義務づける場合には、上述の行政組織の弾力性を犠牲にしてまで法定を求める根拠が厳しく問われることになる。
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