本研究は、言論市場にさまざまな仕方で関与・介入している公権力の現状を踏まえたうえで、そうした政府の活動を憲法論として的確に位置づけるとともに、その意義と憲法上の限界について明らかにすることを目的としている。 平成20年度は、次の通り、3つの課題の検討を試みた。(1)私人や団体に対し、特定内容の表現を強制するという仕方によって言論市場に参入する場合について、とくに表現の自由のコロラリーとして導き出される「表現しない自由」の観点からいかなる統制が可能なのかにつき、アメリカ合衆国の判例・学説を参考に検討した。検討の結果、「表現しない自由」を侵害されるのは、「意に反して」特定の表現があたかも自分自身の見解のように帰属させられる場合であることを明らかにした。 (2) 言論市場に「規制」ではなく「助成」という仕方で介入する場合について、アメリカ連邦最高裁および学説による対応の変遷と代表的アプローチを概観し、それぞれの意義と課題を整理した。 (3) 公的言論助成を行う政府の権限統制の可能性について、特に表現の自由の観点から、アメリカの学説を整理・検討した。検討により、近年の学説は自己統治の価値や公共討論の価値に着目した議論を展開していることを明らかにし、その課題も提示した。 以上の検討により、言論市場に対して「助成」、「表現の強制」という仕方で介入する場合において表現の自由の観点からの統制の方途について、一定の道筋を提示できた。
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