研究概要 |
本研究は、言論市場にさまざまな仕方で関与・介入している公権力の現状を踏まえたうえで、そうした政府の活動を憲法論として的確に位置づけるとともに、その意義と憲法上の限界について明らかにすることを目的としている。平成21年度は研究実施計画に基づき、次の通り、3つの課題の検討を試みた。 第1に、文化助成に代表される国家による表現活動への助成を、憲法的観点から考察するにあたっての前提的な論点、すなわち、そもそもいかなる根拠に基づいて、そうした助成を行うことができるのかという論点について検討した。検討により、日本国憲法上、文化助成を行う憲法上の「義務」は存在していないが、「権限」はあることを明らかにした。 第2に、表現活動への助成を表現の自由条項のもとで考察する理由と範囲について検討した。検討により、文化助成の問題すべてを表現の自由の問題として構成する必要はなく、表現の自由の観点から考察が必要な局面は、助成条件として特定の表現活動を行わないことを義務付けたり、表現内容を理由に助成を撤回したり、特定の表現のみに助成する場合であると論じた。 第3に、近年アメリカ憲法学で用いられている「政府言論の法理」について検討した。一般に二本において「政府言論」といわれる場合、言論市場に参加する政府活動一般を指すが、アメリカの連邦最高裁における「政府言論の法理」は、観点中立原則の例外を認める法理であることを指摘した。加えて、「政府言論の法理」に関する最新の判例である2009年に下されたPleasant Grove City v.Summum,129 S.Ct 1125(2009)の検討を行い、「政府言論の法理」の問題を考えるにあたって重要なことは、いかなる政府行為が政府言論に該当することになるのかを明らかにすることであると指摘した。
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