研究概要 |
今年度の研究は,交付申請書の「研究実施計画」のうち特に第一点目を中心に行われた。それは2つに分かれる。 第一は,第三共和政期の憲法理論と国民内閣制論の断絶を明らかにすることである。すなわち,ネットワーク状に広がった信用と責任追及のメカニズムが前者の前提にあるのに対して,後者は有権者ないし国民と内閣・大統領との間の一元的な信用関係を前提とする。このことは昨年度も漠然とイメージしていた(昨年度の研究実績報告書参照)が,それを明確に認識するきっかけになったのが二番目の研究業績の執筆作業である。これは,公表媒体との関係上,解説ものの形式をとったが,私にとっては論文に等しい進歩があった。 他方,昨年度新しく広げた自由論との関係という問題意識は,自由の概念だけではなく法人格論との関係を検討する広い研究につながった。一番目の研究業績はその成果であるが,今のところは序論的なものにとどめている。 以上2つの研究は,互いに関係したものと考えている。その最終的な構想は,高橋教授の議論と,第三共和政期の議論との断絶を示す上で(1つ目の方向),統治機構論的な側面だけではなく人権論的な側面を意識する(2つ目の方向,学位論文の研究)というものである。現段階では調査中であるが,第一次大戦前後のフランスでの一連の政治的事件を手がかりにこれを行ってみたい。この研究の成果は2013年公刊予定の論文集での発表を考えており,ここでこのたびの研究活動の総括を行おう考えるに至った。この計画について今期,ストラスブール大学の研究者から簡単なコメントを得たので,それをさらに生かすべく23年度に在外研究も行いたい。 なお,年度当初の「研究実施計画」で予定していた第二点目,司法権の研究は,最初数ヶ月行ってみたものの,宮沢教授が参照したボナール,それ以前のフランス公法学の訴訟概念の研究から生産的なものを得られず,こちらの方向での研究は断念した。
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