人に対する直接の侵襲をともなう臨床研究との関係での学問の自由に対する規制に関し、文献およびインターネット等から情報収集し、過年度の研究をも総合して、生命倫理と法の諸問題の法的検討を進めた。また、日本公法学会総会、日本医事法学会総会、日本法哲学会学術大会、応用哲学会大会などに参加・聴講し、あるいは、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しに関する三省委員会を傍聴して、情報の収集・交換を行い、検討を進めた。その結果、次のような知見が得られた。 ・人に対する直接の侵襲をともなう臨床研究も、一定の場合には、憲法上の学問の自由によって保護されるが、法律による必要かつ合理的な規制を受けうる。 ・学問の自由に対する制限の違憲審査基準に関する議論は混迷しているが、物理的作用から生じる危険と情報から生じる危険を区別して整理すべきである。 ・研究倫理審査規制は、学問の自由に対する<内容規制>であると捉えられ、厳格な司法審査に服すると考えられるが、研究対象者の保護のために必要不可欠な手段といえ、科学的専門性・自律性に適合した実体基準と手続を内容とするものである限り合憲である。 ・学問の自由は集団的・特権的性格を有し、研究者団体の自律的規律の研究者との関係での限界について、公権力の規制の自律的団体との関係での限界と同時に考察する必要がある。自律的規律の外部的効果や公権力による規制との結びつきにも注意した上で、学問の自律性と社会規範との関係について考察すべきである。 ・憲法が学問を民主政とは別の公的回路として認めていることや、学問の自由が「人権」としての性格を有していることにも注意し、科学・技術や生命倫理の問題に関する民主主義の妥当範囲について慎重に検討する必要がある。 以上のような知見は、論文にまとめて公表した。
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