本年度は、課題について主として資料収集とその読解に従事した。課題は地方公共団体による経済活動の許容性であるが、地方公共団体が経済的取引に参加する局面には、自ら営利活動を行う場面と、一消費者として調達活動を行う場面とがある。本年度は、行政が企業的活動を通じて公益を追求する場面と、調達活動(私法上の契約の締結)を通じて公益を追求する場面の双方について調査・検討を加えた。それらのうち、企業的活動の許容性については、それら活動の内容それ自体に公共性のあること、また民業圧迫にならないことが求められるが、この場面では市民の権利自由を大きく損なう可能性は想定しがたい。 それに対して、調達活動を通じた政策目的の追求には、独自の問題が存在している。第一に、政策追求手段としての許容性それ自体が問われる。なぜなら、命令強制といった権力的手段により一定の政策目的への服従を強要される場合と異なり、一定の政策目的に合致した事業者のみと契約を締結するという方法をとられた場合、排除された事業者には、法的にそれに対抗する手段が容易には見つからないからである。また、政策目的それ自体の正統性も問われる。契約締結は非権力的手段であり、かつ、調達行政のようないわゆる「私経済行政」には法律の留保の原則が及ばないとされているため、法律の根拠なしに、任意の政策目的を追求することが可能となってしまう。したがって、調達を通じた政策目的の追求についても、その政策目的について民主的正統性の有無が問われるべきである。以上の点は、従来、行政法学としてほとんど議論されてこなかった論点である。
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