研究概要 |
第一に、昨年度までに蒐集した国際法の履行確保の制度化についての文献の解題と、最新の文献のさらなる蒐集を行った。 第二に、国際法の履行確保の他分野との比較研究に関しては、海洋生物遺伝資源の国際管理について、国際組織による国際管理と、従来の伝統的な国際法原理による管轄権の交錯という2つの立場の対立に加え、国際環境問題ならではの「予防的アプローチ」を取り込んだ新しい立場を分析し、論文にまとめて発表した。(「海洋生物遺伝資源に関する国際法上の規制-現状と課題」永野秀雄・岡松暁子編著『環境と法-国際法と諸外国法制の論点-』(三和書籍、2010年)、33-56頁。)また、2010年4月に国際司法裁判所で出されたパルプミル事件につき、その判決を分析することにより環境影響評価の国際法上の位置づけを検討した。この事例は、国家には「相当の注意」をもってその領域使用を管理する責任がある(トレイル熔鉱所事件仲裁判決(RIAA,Vol.3,pp.1965-1966),リオ宣言原則2)、という原則について、環境影響評価が実施されなければ、国家はその「相当の注意」義務を履行したとは言えないとの立場を示した。越境環境問題において実体的義務の履行確保手段である環境影響評価の実施を、「相当の注意」の存在を認定する一つの判断要素としたという点で、極めて注目に値する判決であった。これは、近く活字となる。 第三に、年度末に、日本で起こった東日本大震災に伴う原子力発電所の事故により国際法上の新たな問題が提起された。この問題の検討については今後の課題となるが、現時点での問題点を抽出した。原子力事故早期通報条約の適用範囲や、損害賠償制度について、新たな課題を見出した。
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