フランチャイズ(FC)本部と加盟店の利益配分の均衡を図るには、加盟店のgoodwill(信用・商圏・顧客等)に着目をするのが有効な手法であるとの観点から研究を着手した。例えば、契約終了後の競業避止義務を旧加盟店に課すということは、加盟店が築いたgoodwillは全て本部のものとなるということである。本部によるノウハウの提供がFC契約の本質的要素ということもあり、容易に当該義務の合理性が認められてきたが、本部のノウハウの全てが当該義務で保護されるべきなのか。そこで、米国の当該義務に関する判例を検討し、その思考回路を日本法の分析の際に参考とした。結論の中心部分は次のとおりである。一般的知識・経験・記憶・熟練を用いることはそれを獲得した者の自由である。公知の場合もその情報の利用を制限できない。また、加盟店は多額のロイヤリティ等を支払うのであるから、本部が提供すべきは有用なノウハウでなければならない。そして、そのノウハウが重要ならば本部はその秘密性維持に努めるのが通常である。更に、ノウハウの流用により、競業他社に対する本部の優位性が消滅する等の不利益が生じうることも必要であろう。以上の条件を満たし、契約終了後の競業避止義務で保護されることが認められるべきノウハウは不競法で保護される営業秘密の対象たるノウハウに近づくことになる。ノウハウはFCの中核的要素であるが、これまで日本ではFCのノウハウ論がほとんど論じられてない。また、以上のような理論を展開した判例も見受けられなかったが、FC契約終了後の競業避止義務について争われた平21年3月9日東京地裁判決(平成18年(ワ)第24341号損害賠償請求事件)が同様の理論を基にしたと考えられる判決を下しており、FCのノウハウ論に一石を投じることができたと思われる。
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