本研究は、国家規制を基盤とする日本の伝統的労働条件決定システムが機能不全に陥っているという問題意識のもとに、実態に即した労働条件決定を誰がどのように実現していくかを検討するものである。特に本研究では、国家規制を集団的労使合意で緩和(=「柔軟化」)する場面に注目し、いかなる事項について、誰が、どの程度国家規制を緩和することができるかを考える。 平成20年度は、独仏における法規制の柔軟化をめぐる制度の大枠を検討し、比較法的観点から日本における望ましい法制度を考えるための準備作業を進めた。その結果、独仏では、産業や企業ごとに最適の規範が大きく異なる数量的・技術的規制を中心に、実情に詳しい労使に規範設定をゆだね、国家は労働者の健康保護に不可欠の規制を行うという枠組みに有用性が認められていた。もっとも、その場合の柔軟化の担い手については、労働者の多様な意見を適正に反映し、かつ、使用者と対等に交渉しうるような制度的手当が不可欠であると考えられていた。さらに、交渉主体に応じて柔軟化の対象事項および限界が具体的にどのように決定されているかについては、独仏では、'労働者代表の法的地位・権限の差異を基礎としつつ、当該代表者が実際にどの程度労働者保護に配慮した規範を設定しうるかという実態面が考慮されていた。これらの考察をもとに日本への示唆を導き、柔軟化をめぐる具体的制度設計を考えるのが平成21年度の課題である。
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