平成20年度は、(1)国内の社会サービス争訟例の収集および分析、ならびに(2)スウェーデンの社会サービスにかかる行政裁判制度に関する調査を行った。 (1) については、当初計画していた国保連での資料収集の予定を変更し、公刊裁判例の収集・分析を行った。介護保険法施行後、介護事故を巡る裁判例を中心に社会サービスにかかる判例が増えており、既に公刊されている裁判例のみでもかなりの件数があることが判明したためである。措置方式の下での紛争については、最高裁判所第一小法廷平成19年1月25日判決の詳細な検討を行い、その成果を発表済みである(下記の11.研究発表を参照)。また、契約方式の下での裁判例についての研究成果は、季刊社会保障研究45巻1号(2009年6月発行)に掲載される予定である。 (2) については、2009年2月にスウェーデン・ルンド市にて現地調査を行い、日本の措置法式に近い形式で社会サービスを提供が行われているスウェーデンにおいても、近年、民営化の促進および利用者の選択権の保障が重視されており、この点に関する新たな法律も制定されるとの情報を得た。また、これに伴い、今後、社会サービスの利用関係がより複雑化することか見込まれ、新たな紛争に対応する紛争解決の方法はスウェーデンの法学者の間でも議論となっていることも判明した。 以上の研究成果は、わが国の社会サービスを巡る紛争を総合的に分析・整理するものとして先行業績にはない新規性を有し、今後の社会サービス争訟の解決万法を考える上でも重要性を有する。また、スウェーデンの社会サービスに関する法的研究がいまだわが国では乏しい状況下にあって、本研究は、高福祉国として注目されるスウェーデンの社会サービスの現状と課題をわが国に伝える点でも、重要な意義を有する。
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