本研究の目的は、食品・農産物の品質確保に関する諸外国の制度の特徴や課題を明らかにし、いかなる制度が日本において導入可能であるかを検討することにある。そこで、平成22年度は、国内の生産者や自治体とも連携しながら、比較法をふまえつつ、日本の現状にふさわしい制度の具体案作成に取りかかった。そのひとつの成果が、「国際的なワイン産地となるために『日本ワイン』のルールづくり急げ」(酒販ニュース)であり、同論文は、業界関係者から大きな反響があった。 EUにおいて日本固有のブドウ品種である「甲州」のラベル表示は認められていなかったが、本研究を通して解決方法が明らかになり、最終的にはラベル表示が可能になった。しかし、依然として、日本ワインは、EUでは産地名を名乗ることのできないワインとして取り扱われており、産地名の表示のためには、現行制度の下での国税庁告示による方法に依拠すべきであることを「山梨県産ワインの輸出に関するEU法上の諸問題」(明治学院大学法科大学院ローレビュー)や業界向け講演会などで指摘した。実際、自治体は本研究の指摘に基づき、関係省庁との協議を進めており、本研究は、とりわけ山梨県内の事業者に大いに貢献するものとなった。 EUは、日本との経済連携協定の締結の前提として、日本に食品・農産物の地理的表示制度の法整備を要求しており、具体的対応策を早急に検討しなければならない状況にある。昨年、研究代表者らは、「日本ワイン法制定研究会」(会長は弁護士の山本博氏)を発足させ、関係者とともに問題の検討に着手したが、最終的に、EUの地理的表示制度に対応し、品質概念とも結びついた制度の確立が必要であるとの結論にいたり、2011年3月に『日本におけるワイン法制定へのお呼びかけ』を報告書として取りまとめた。この報告書は、国会議員等にも配布され、立法化に向けた重要な研究成果として位置づけられている。 なお、平成22年度までの主要な研究成果は、webページ(比較ワイン法研究室)で公表しているほか、一般の消費者に対する情報提供として、雑誌『ワイナート』でワイン法関係の論文を連載中である。
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