研究は順調にすすんでいる。初年度は、前提作業としてイタリアの賃金と差別禁止立法の分析をおこなった。すなわち、イタリアにおいては、賃金がどのような制度を用いて決定されているのか、賃金の構造はどのようになっているのか、そして賃金をめぐる法的議論はどのようになっているのかを解明し、さらにはイタリアにおける雇用差別禁止立法の歩みを丹念に調査した。調査にあたっては、文献の分析だけではなく、このテーマを扱った論考を発表している、イタリア・カターニア大学法学部のジャンカルロ・リッチ教授へのインタビューもおこなった。 成果の一部は、「早稲田法学」および「季刊労働法」において論文として公表済みであるが、要約すると、イタリアでは、指揮命令権をはじめとする使用者の強大な権限を抑制して、適正な労働条件・労働環境を実現する手段として労働協約による団体的な労使自治を重視する傾向があり、賃金の決定においてもそれは妥当すること。一方で、差別禁止法制も、使用者の強大な権限を立法的に抑制する役割を果たしていることが明らかとなった。賃金の均等待遇原則(同一労働同一賃金原則)をめぐる議論も、このような枠組みの中に位置づけることが可能であると考える。 来年度は、初年度の成果を踏まえつつ、イタリアにおける賃金の均等待遇原則が、賃金や差別禁止立法とどのように結びついた議論なのか、日本の同一労働同一賃金原則をめぐる議論とはどの点において異なり、どのような示唆を得ることができるのかを中心に据えて、所期の研究目的を達成したい。
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