本研究の目的は、実務の運用状況や裁判員裁判・公判前整理手続という新たな制度的状況を踏まえつつ、要証事実の意義を実証的かつ理論的に検討することにより、訴訟制度の枠組みの中で内容的正当性のある事実認定を確保するための具体的条件を洗い出すことである。本年度の研究実績の概要は次の通りである。 実証的研究(ケース研究)においては、いわゆる(1)大阪母子殺人放火事件、(2)鹿児島老夫婦殺人事件、(3)布川事件を取り上げ、各事件の各審級において間接事実の証明や間接事実からの推認がどのように行われているか、検討した。とりわけ(1)に係る平成22年4月27日最高裁第三小法廷判決について、同判決が、間接事実からの推認のあり方と同時に、間接事実の立証のあり方についても、総合評価や間接事実のレベル(主要事実を直接推認させる第一次間接事実か、それとも第二次以下の間接事実か)との関係を踏まえながら、厳正な態度をとっていることが明らかになった。 理論的研究においては、要証事実としての間接事実の意義(間接事実の証明のあり方)について検討し、「情況証拠による事実認定において総合評価が必要となる場面があることを前提としながら(すなわち、主要事実が合理的疑いを容れない程に証明されなければならない以上、その主要事実の認定には、第一次間接事実から成る総合評価を要する。また間接事実が合理的疑いを容れない程に証明されなければならない以上、その間接事実の認定には、その間接事実よりも下位の間接事実から成る総合評価を要する場合がある。)、しかし間接事実が、その間接事実と同位にある間接事実から成る総合評価によって、合理的疑いを容れない程に証明されることはない。」との結論(成果)を導き出した。かかる証明のあり方は、先に述べた(1)に係る最高裁判決と符合している点で、実務上も遂行可能なものであるといえよう。
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