本研究の目的は、実務の運用状況や裁判員裁判・公判前整理手続という新たな制度的状況を踏まえつつ、要証事実の意義を実証的かつ理論的に検討することにより、訴訟制度の枠組みの中で内容的正当性のある事実認定を確保するための具体的条件を洗い出すことである。 本年度は最終年度に該当するため、研究成果のまとめと公表とを中心に、研究活動に従事した。実証的研究(ケース研究)としては、第一に、間接事実(自白の信用を裏付ける補助事実も同様)は自らが総合評価に参加する前に合理的疑いを容れない程に証明されなければならず、とりわけ情況証拠しかない事案においては、第一次間接事実として証明されなければ主要事実を認定するための総合評価に参加することは出来ないという情況証拠論が、最近の大阪母子殺人事件上告審判決(最三小判平22・4・27)を含む一連の最高裁判例から読み解きうることを解明し、その研究成果としての論文を公表した(豊崎七絵「最高裁判例に観る情況証拠論-情況証拠による刑事事実認定論(3)」法政研究78巻3号709頁以下)。また第二に、かかる最高裁判例が下級審とりわけ裁判員裁判に与えた影響についても検討し、その研究成果の一部としての評釈を公表した(豊崎七絵「情況証拠による犯人性の証明ができないとされた事案-鹿児島老夫婦殺人事件」法学セミナー679号122頁)。 また理論的研究としては、総合評価への間接事実の参加資格として合理的疑いを容れない程の証明を求め、かつ、その前提として、間接事実のレベルの明確化ならびに要証事実を基準として総合評価を区別することは、間接事実からの推認を、より分析的客観的な過程にし得ることを解明し、その研究成果としての論文を公表した(豊崎七絵「間接事実の証明・レベルと推認の規制-情況証拠による刑事事実認定論(2)」『人権の刑事法学村井敏邦先生古稀記念論文集』697頁以下)。
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