今年度の最大の成果は、株式所有構造と法制度の関係の中でも、日本の株式所有構造に特有の株式持ち合いについて主に法理論面の研究を進めた点にある。そのうち、日本法の歴史的経緯の分析、ドイツ法の歴史的経緯の紹介と分析について論文を公表した。公表した部分は、伝統的な法律学方法論を中心としているが、他面において、法の経済分析WS、比較法政シンポジウム参加を通じて得た知見を基に、法と経済学およびファイナンスの近時の理論的成果を組み込んでの検討は、すでに論文とした部分も含めて、第72回私法学会にて報告した。少なくとも、本研究の主眼であるprivate benefitの規制が難解であることの問題意識を学界に共有させることまでには一定の成功をおさめた。他面、本研究の主眼である法律学にファイナンス的成果を導入するという点については、その準備作業として、規範的主張を扱う法律学と記述的研究でしかない経済学・ファイナンスとが本質的に相容れないものではないかという方法二元論の根本的問題に遭遇した。まず、事実状態が法規範に与える影響の代表例として、会計慣行と会社法の計算規定の関係を近時の裁判例の評釈として検討し、成果を公表した。さらに、一般的・包括的な考察を目指し、かつての法解釈論争の位置づけを再度行うことを目的として整理した成果を公表した。この作業のために、専攻分野以外の研究会(比較法学会、信託法学会等)にも参加し、方法二元論に対する理論的対応という観点からさまざまな知見を得た。とりわけかつて有力に論じられたものの現在では一部基礎法分野でしか取り扱われていない法とフィクション論が、法の経済分析やファイナンス成果の法律学への導入の観点から非常に重要な役割を果たしうることを指摘できたのは最大の成果であり、すでに公表した論文でも一部取り込み、次年度の早い段階で成果が公表できる準備も整った。
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