今年度の作業は主に成果の公表に充てられ、最大の成果は、昨年度来公刊を続けていた長編論文を完結させたことである。持合株式規制という条文上は小さな問題が、少数派株主保護という文脈の中に再構成され、少数派株主保護の問題は、株式所有構造をいかにデザインしていくかという問題であるという大きなストーリーを描き出すことに成功した。具体的には、株式持合といわれる問題枠組みが、株式を保有しているという場面だけではなく、取引先関係等の株主として以外の地位に立つ者が株主を兼務することで、株主に議決権を認めた法律が予定していた経済的地位とは異なる状況に株主が置かれ、それにより法律が期待していた株主の会社利害関係人の価値の総和の最大化のインセンティヴが歪み、多数派株主が歪んだ状態で会社支配権を行使すれば少数派株主及びその他の利害関係人が害されることを問題とし、実証研究はこの問題意識を支えていると指摘した。この問題意識を敷衍すると、近時、アメリカで議論されている、株主が経済的帰属をデリバティヴ商品等によって回避しつつも議決権を維持することを問題視するEmpty VotingないしNew Vote Buyingの問題も同列に論ずべき事柄として発展させることができた。また、会社法以外の独占禁止法・銀行法における株式保有規制も同列に論じられるかどうかを問題提起し、日本で現実に起きている紛争において政策目的による株式取得をどのように考えるべきかの問題提起も行った。本研究の描いたストーリーは会社法上の少数株主保護制度全体の意義についても再構成を迫るものであるため、専門家向けの論文だけではなく学部生向け教材に成果を反映し、より広く社会一般向けのものも公表し、社会への啓蒙・還元を図った。それとは別に、本研究の採用した方法論を自覚的に検討し従来の伝統的な法律学との対比も行った。
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