平成19年のブルドックソース事件を最後に、わが国における敵対的買収はいったん、沈静化し、買収法制をめぐる主要な関心は、マネジメント・バイアウト(MBO)をはじめとする友好的な(経営陣にとってという意味)買収の局面における株主の利益保護の問題に移っている。平成20年には、MBOの買収対価の公正さをめぐるわが国で初の最高裁判例であるレックス・ホールディングス最高裁決定が下されたが、平成21年には、サンスター事件とサイバード事件において、MBOの対価の公正さをめぐり、かなり異なる下級審裁判例が出され、経営陣と株主との間の利益相反のある買収取引において、裁判所の審査をどのように行うかについて、関心が集まっている。それと同時に、MBO以外の友好的買収においても、株式の市場価格の下落や税制上の動機等もあり、株式買取請求の事例が増加している。このような状況から、本年度は、株式買取請求あるいは全部取得条項付種類株式の全部取得の場面における、株式の取得・買取価格の決定の方法を主として研究した。後掲の田中(2009)は、現段階の私見を短いエッセーにまとめたものであり、次年度はこのテーマをさらに探求し、本格的な論文に着手したいと考えている。また、敵対的買収に対する防衛策を主とするこれまでの買収関係の論文については、これをまとめて著書として出版することを構想しており、本年度は、過去の論文の校正と、現段階の私見をまとめた終章の執筆に着手した。同著は、次年度には出版できる見通しである。
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