20年度は、ドイツとアメリカにおける民事執行制度に関する資料の収集、整理作業を開始した。資料の多くは、歴史的、理論的、比較法的な分析を示すものであり、19世紀初頭のフランスで採用された平等主義が今日においてもヨーロッパの様々な国において模範とされていること、19世紀後半のドイツで優先主義が採用されていった過程の素描や、ドイツにおいて憲法上の平等原則と執行法上の優先主義との関係について議論があったことなど、制度や議論の概略を把握することで、21年度以降はさらに分析を深めるべき事項を明らかにした。また、アメリカの複数の州における、担保執行制度も含めた強制執行制度の概略や、そこに妥当する原則についても広く調査した。アメリカのほとんどの州では優先主義を採用しているが、ドイツ法におけるそれとは様々な点で異なる様相を示し、かつ、州によって違いもあるようなので、今後はいくつかの州を選んでさらに詳しく調査する必要があることが分かった。また、以上の資料の中には、執行手続の実態を示す資料はあまり含まれていなかったため、実務の状況を示す統計資料等の収集も充実させるという21年度以降の指針も明らかになった。 さらに、アメリカ法における債権回収と倒産法、担保制度や貸付制度に関する議論も並行して研究した。例えば、実体法上の一般債権者の一部が倒産手続や執行手続において優先順位が付与される場合の制定法や理論的根拠について検討し、債権回収法全体から執行手続の原理を見直す際の示唆を得ることができた。 なお、日本の民事執行、債権回収法に関する資料の収集も行ったが、統計資料の収集が容易でないことが分かった。21年度以降、日本の判例や議論の整理を継続して行うとともに、執行の実情を示す資料を収集するという課題を残した。
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