21年度は、特にアメリカにおける強制執行、倒産制度と担保権などの実体法上の優先権と債権者平等との関係について調査し、日本法における示唆をまとめた結果をいくつか公表した。まず、汚染物質を排出するなど社会に負の影響を及ぼす企業が倒産した場合に、その回収費用を分担させるのは誰であるのかという問題につき研究を行った。従来はこの問題は破産管財人の善管注意義務の射程の問題として論じられてきたが、回収費用を一般債権者や債権者ではない地域住民などが負担することにより、利益を被る担保権者に一定の負担を課すことの可否、また、負担を課した場合に当事者の貸付行動に及ぼす影響という視点からこの問題を見直し、法と経済学の議論をも参考にしつつ検討を行った。また、無担保債権ではありながらアメリカの強制執行手続や倒産手続において優先的な地位が与えられている扶養料債権につき、優先的な回収のメカニズムやその理論的根拠を、近年の改正の政治的な背景に立ち返りつつ研究を行った。実体法上の優先権が民事手続に及ぼす影響、あるいは実体法上の債権者平等が民事手続上維持できない例につき、新たな視点を得ることができた。 また、日本法に関しては、執行制度に関する適当なデータを得ることはできなかったものの、近年の債権法改正の対象の一つである詐害行為取消権を素材に、実体法の債権回収制度、執行制度、破産制度を通じて債権者平等を確保するための制度について研究を開始し、それに関する実務家や他の研究者との意見交換を通じて、債権回収における平等主義に関する実務家の視点と理論との乖離につき示唆を得ることができた。 ドイツの債権回収制度については、22年度に引き続き執行制度の体系書を中心とした資料収集を行ったが、それらの資料の閲読を引き続き行った。
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