平成22年度は、平成21年度に引き続き、民法上の債権者平等の原則と、執行、倒産手続上の債権者平等の原則の双方に関連する詐害行為取消権に関する研究を行い、知見を整理して発表した。債権者取消権の制度が、執行、倒産などの法的手続に入る前の段階で、抜け駆け的な回収を図る債権者がいる場合に、これを是正し、債権者間での話し合いを促すきっかけとして利用する方向性を持つべきである旨の私見をまとめ、シンポジウムで行い、共著の著書の形で公表をした。その際、実務家側から、私的整理の場面で詐害行為取消権を行使する債権者が出た場合には、もはや話し合いの余地がないので、強制的な法的な回収制度を用いた方が適当であるという有益な指摘を受けることができた。これに対しては、むしろ、取消権者が事実上優先弁済を受ける現行の詐害行為取消権を改め、多くの債権者が平等弁済を受けることを可能にする制度として構築し直すべきであり、債権者には通知・公告等で参加の機会を与えるべきであるという見解を示した。ただし、この見解には、現行の平等主義を採用している民事執行制度が予定する以上の手続を、実体法の制度にも組み込むことができるという課題もあり、民事執行制度で見直すべき新たな課題を発見することができた。加えて、当初の研究計画にはなかったが、国際倒産の場面でも、例えば日本とアメリカの実体法、手続法における債権の優劣の違いが、外国倒産手続の承認執行や並行倒産の場面で、困難な問題をもたらしていることが分かった。アメリカの担保制度、融資制度、執行、倒産制度については、前年度に引き続いて立法資料、文献の収集といった調査・研究を行ってきたが、加えて、判決を得たものに優先権を付与するジャッジメントリーエン制度の研究を深めていくことも、本研究の目的に関連して必要であることが明らかになった。
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