研究概要 |
企業買収契約における表明・保証条項についての、判例文献を検討する中で、特に、表明・保証違反があった場合について、買主側が当該表明保証違反を重過失で知らなかった場合についても、買主側は依然として表明・保証違反の責任を売主側に追及できるのかどうかという点が、重要な問題として浮かび上がってきた。この点について、東京地裁平成18年1月17日判決(判時1920号136頁)は、一般論として「XがYらが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることがXの重大な過失に基づくと認められる場合には,公平の見地に照らし,悪意の場合と同視し,Yらは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである」と判示しているが、日本法においては未だ十分な議論の蓄積はない。他方、ドイツ法においては、ドイツ民法442条1項に、「契約締結時に買主が瑕疵を認識していた場合には、瑕疵に基づく買主の権利は排除される。買主が重過失により瑕疵を認識しなかつたときは、売主が瑕疵を悪意で黙秘していたか、もしくは目的物の性質(Beschaffenheit)について損害担保を引受けていた限りで、買主は瑕疵に基づく権利を主張しうる」という規定があり、この規定をめぐって、旧ドイツ民法典以来から多くの議論の蓄積があることが分かった。現在は、この点についての、ドイツ法の判例、文献を収集し、分析を進めている段階である。
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