平成21年度は、前年度に引き続いて、日本の学説および裁判例の分析を行い、さらに、2009年8月に3週間ケルン大学に滞在し、資料収集を行った。ケルン大学法学部では、ダウナー・リープ教授ならびにその研究協力者の方々から、様々なご協力をいただき、ドイツにおける企業買収および重過失免責に関する有益な資料を収集することができた。そこで収集した資料を分析し、ドイツ法における、企業買収契約の表明保証と重過失の関係についての現在の議論状況を明らかにした。その過程で、ドイツ法では、そもそも企業買収においてデューディリジェンス(企業監査)を行わなかった場合に、重過失と認定されるのかどうか、その前提として、デューディリジェンスを行うことが取引慣行となっているのかどうかがまず問題とされていることがあきらかとなった。そしてさらに、デューディリジェンスを行わなかったことが重過失となる場合には、買主側の重過失と売主側の保証の引受との関係について規定している、ドイツ民法442条の規定の解釈が問題となり、そこで、さらに、なぜ、ドイツ民法においては、性質保証と重過失免責を規律する条文が規定されたのかを明らかにする必要がでてきた。そのために、ドイツ民法442条の立法過程を検討し、その成り立ちから、性質保証と重過失免責の関係を明らかにすることを試みた。現在は、ドイツ法の議論を参考にして日本法の解釈にどのような示唆を与えうるかを検討し、その成果を、研究会で報告する準備をしている段階である。
|