本年度は、3ヵ年の継続研究の初年度であることから、第1段階として、日本における民法・特別法上の契約解消法制に関する具体的な問題状況の把握とその内容の検討に努めた。 その中で、本研究のテーマとの関連で、現代社会における喫緊の課題として浮上してきたのが、多重債務の一本化を謳い文句にして、一本化前の債務につき利息制限法違反の利息の支払いまでさせてしまう「おまとめローン」をめぐる問題である。ここでは、公序良俗違反・錯誤・詐欺など民法上の契約解消法理(さらに、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償法理)による解決と消費者契約法上の契約取消法理による解決がいずれも可能である。そこで、『国民生活研究』(国民生活センター発行)に「『おまとめローン』契約の有効性」と題する論稿を2回にわたり連載し、特に、民法と消費者契約法における契約解消法制による解決のあり方を詳細に検討したうえで、これらの解決方法の相違点を明らかにし、具体的な問題における両者の融合へ向けた手がかりを探ることにした。ちなみに本稿では、「違法なシステム構築」に基づく公序良俗違反という概念を構築して、従来から柔軟な活用が志向されてきた公序良俗違反論の新たな可能性を提示することが試みられている。 さらに、来年度以降の比較法研究を念頭に、ドイツ・EUの立法動向に関する資料収集も積極的に行った。とりわけ、2009年2月に刊行された「共通の準拠枠組(Common flame of Reference)」草案は、今後の研究にとって重要な資料であり、現在、分析を続けている 以上の状況をふまえて、本年度は計画した研究成果をほぼ得られたものと考えている。
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