1 倒産手続において優先弁済を受ける権利としては担保権を挙げることができるが、債権は基本的には優先弁済を受けることができない。すなわち、担保目的物が滅失・毀損したために第三者に対する債権と化した場合には優先弁済を受けることができなくなる。それを救済するのが物上代位制度である。もっとも、物上代位は担保物権以外の領域においても認められている制度である。ところがこのことはわが国ではこれまであまり自覚的に論じられてきておらず、外国法と比較する際にも担保物権法の領域での比較にとどまることが多かった。そこでまずはドイツ・フランスにおける物上代位制度の適用領域を検討することでわが国の物上代位制度の根底にある考え方を明らかにすることが課題となる。比較法学会における報告ではこうした問題提起を行った。そして、同様の作業はわが国とは制度を大きく異にする英米法についてもなされる必要がある。公刊論文はないが、本年度は物上代位と同様の機能を果たす制度である擬制信託・衡平法上の先取特権・トレーシングの法理についての体系書の分析を行った。この成果は平成21年度以降に論文として公刊する予定である。 2 以上の作業の具体的事案への適用として、ドイツにおける添付の際の償金請求権に関する検討を行った。この問題につきわが国では単純に不当利得という債権的な救済で足りると解されておりドイツでも自覚的な議論はないのだが、添付の成立範囲ならびに旧来の所有者が有する救済方法を詳細に検討し論文として公刊した。日本法については検討中であるが、わが国に比べドイツの方が償金請求権という債権が発生するケースを限定する傾向が見られる。わが国においても不当利得返還請求権は単なる債権にすぎないという考え方に対して疑問を呈するかに見られる議論があり、今年度はこうした議論の集積に努めた。この成果は平成21年度以降に続稿という形で公刊する予定である。
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