1. 本年度は前年度の研究の継続として、倒産手続において優先弁済を受ける権利に関する研究の各論にあたる添付の際の償金請求権に関するわが国の議論をまとめることを中心的な課題とした。この問題についてはわが国物権法に関する研究においてはほとんど議論がなく、不当利得法においてもごくわずかな例外を除き議論を行っていない。そうした中で川村・四宮両博士の議論に着目して分析を加えた。いずれも不当利得返還請求権を単なる債権として把握することに対して疑問を呈する見解であるが、特に川村博士はこの問題について続稿で取り上げることを示唆しながらも不当利得法学の総論を公刊するに止まっていた。このように添付の際に発生する償金請求権については十分な研究がなされていないことを明らかにした。さらに判例・裁判例の分析を加えた。そこでは付合の成否を決定するには民法二四二条但書の「権原」の有無が重大な役割を果たし得ること、付合の成立を否定することによって償金請求権に物権的救済を与える可能性があることが明らかとなった。しかし、独仏の場合と比べ、法文上は添付の成立が認められる領域が広く、また判例・裁判例でも償金請求権の発生に着目して添付の成否を決定するものが見られないため、わが国では添付によって旧来の所有権者の権利が害される可能性が独仏に比べて高いことが示唆された。公刊誌の紙幅の都合上分析の一部の公刊にとどまったが、成果は平成二三年度に公刊する予定である。 2. 前年度に続き独仏における物上代位に関する議論の整理・判例のさらなる収集を行った。特に夫婦財産・不在者財産に関する判例が集積されたため、物上代位を担保法の領域のみで用いることの多いわが国において、財産管理の側面から、あるいは物権的救済を可能とする制度としての側面から物上代位を位置付け直すのに有意義であると考えられる。この成果は平成二三年度以降に順次公刊する予定である。
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