研究概要 |
平成21年度は、James Goldschmidtの訴訟状態論のほか、Oskar Bulow, Adolf Wachなどの議論を援用し、新堂幸司教授の提唱に係る「行為規範と評価規範」概念の分析を行った。その際、哲学の分野からの援用となるが、J.Ellis McTaggartの時間論を分析的に用いることによって、観察視点と運動像の関連に着目し、「個別手続の動態性は、個別手続内在的にしか観察できず、解釈論は、個別手続の総本を系列化することしかできない」との結論に至った。これは、民事訴訟法解釈論がいかなる内容をもっても等しく妥当する形式的な限界であり、民事訴訟法学の方法論にとって重要な意義を持つと思われる。また、現代の民事訴訟法学において広く使用される、新堂幸司教授の提唱に係る「行為規範と評価規範」の区別が、上記結論と抵触しており、そのため、当該概念は解釈論上の規範概念として使用不可能ではないかとの疑念が呈されるに至った。 以上の結果を、論文「民事訴訟法における『行為規範と評価規範』の意義」民事研修633号11頁(2010)にまとめた。これは、2004年度から始まった研究代表者の手続動態性に関する研究の、総括となり得る論考である。また、本研究から得られた「観察主体と観察対象との非対称性」の知見に基づき、副次的成果であるが、国際文化学会(2009年7月)において、「法の開放性/閉鎖性」と題した、法にとってのマイノリティ論を発表した。なお、個別手続内在的に観察された個別手続の動態性が紛争解決にとっていかなる意味を持つかをにつき、現在別稿を執筆中であり、これは江口厚仁編『法の領分』(仮題・2010年刊行予定)に発表予定である。
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